【中編】合コンで中国人留学生を演じきった話
前編はこちら。
一人で梅酒をガブガブ飲みまくっていたら、カウンター席のほうに常連さんが来たので挨拶に行った。
私「こんばんは!」
常連さん「何やその恰好wwwコンパちゃうんかwww」
私「宣言通りちゃんとジャージで来ました」
女将さん「サトちゃん、最初のビールの人~てやつすごかったねえ~」「一人で梅酒飲んでるの涙ぐましいわ~」
褒められたと受け取ったので、私はいい気になった。カウンターでも梅酒を飲んだ。
シフト中のバイト仲間と「なんかギラギラしてる人いるのウケる」などとゲラゲラ笑っていると、コンパ席のほうにいるC子に戻ってこいと呼ばれたのでしぶしぶ戻った。
席に戻ると、合コンの空気は互いのプロフィールを探り合う感じになっていた。
A子は酒に弱いらしく、「もう~~~!!!!」「あたしなんとかかんとかですよ~~!!!!!」とドチャクソ大声でケラケラ姦しい。
開幕早々ユダと化したR子も酒に弱いのでわりとクネクネになっており、ギラギラしている桑田の目が、その巨乳を嘗め回していた(ように見えた)。R子は酒に弱いのと男性ウケする容姿を持ち合わせており、ハゲタカのように女に飢えている男たちの格好の標的になることは予期出来ていた。私はこの儀式の観察者として、また友人R子を桑田から守るため、最後まで宴を見届けねばならないと再度覚悟した。
男性陣のほうは、桑田ともう一人、二人は本気の参戦に見えたが、残りはその後輩で要は数合わせらしく、私のように手持無沙汰にしていた。
私は席に着いたはいいものの特にすることもないのでひたすら料理を食べていたが、突然向かいの席の男子がボソボソと声を掛けてきた。
「あの・・・中国から、来てるんですか」
そう話しかけてきたこの男子については、最初の自己紹介により年下の理系学生だと把握できていた。メンバーの中で一番年下の彼は、窪田正孝の目鼻立ちを地味にした感じで、純朴そうであった。
「そです。」私はシーザーサラダを食べながら返した。
「あの、中国の人って、生野菜とかあんま食べないって友達が言ってたんですけどそうなんですか?」
「そですねーやっぱちゅごくだと、農薬すごいから、あまり食べないです。ァでも、日本の野菜、おいしです、すごく」
「へえ~~~」
窪田が正直会話に興味がないことは明らかだった。先輩にいやいや連れてこられたコンパで、なんとか、向かいに人が座っている手前会話をしなければならないと、窪田は年下なりに一生懸命考えているのであった。彼を朝ドラヒロインにしたら、全国の老人からNHKに応援のハガキが送られてくるだろう。
会話に興味がない者同士の微妙な空気を共有していると、男性陣の席替えが始まったらしく、わりと本気っぽい男性が窪田の隣にやって来た。真面目な窪田は先輩の意図を察し、別の席に移動していった。全米が泣いた。
「サトちゃんって、どこ出身?」
男の質問を受け、私は、まさか私が日本人だとバレていてこいつはそのカマをかけにきているのだろうかと警戒した。
初対面の異性が複数現れてそれぞれ自己紹介をしたら、まず好みの見た目のやつを覚えるだろうが、同時に異質なやつを一瞬で覚えるはずだ。いやこいつ何でジャージなんだよしかも中国人なのかよ、とインパクトはあるはずだ。その前提をここで覆してくるのだ、こいつはよほどのバカか、私のことを日本人だと見抜いている嗅覚と洞察力の持ち主なのか、私には判断しかねた。しかしわたしの観察者としての立場を崩すわけにはいかない。数合わせの日本人とバレるより、日本の合コンに興味がある中国人でいたほうが、空気も悪くしないだろう。
「ちゅごくです」私は平静を装って言った。
「え~~省まで当てたいな~~wwww」
心底どうでもいいと思ったので、「むずかしですよ~~」と答えた。設定では四川省になっているが、そこまで話す義理はないと思った。
相手はそんなに中国の省に詳しくないようで、
「てかサトちゃんめっちゃ飲むね!」と話題を変えてきた。
私はそのとき梅酒しか飲んでいなかったので、「まだそんなに飲んでないですよ」と答えると、
「何のお酒が好き?」と聞いてきた。
「にほしゅですかね」と言った。このへんは事実だ。うまい嘘をつくには嘘のなかに本当のことを混ぜるといいと云う。
相手はそれ来た!といわんばかりに日本酒を注文し、立山2合が目の前にやってきた。
私とその男は互いに注ぎ合い、乾杯をした。私はどうでもいい会話を終わらせたかったので、一気に飲んで残りを手酌して圧倒する作戦を取った。
「・・・強いね、潰れたことってある?」
相手が怖気づいているのが伝わってきた。中国四千年の歴史の前にひれ伏したのだ。
「ありますよ^^」
私が答えると、まだチャンスを見出したのか
「え~~潰してみたいな~~ww」
とのたまってきたので、
「じゃあしょぶしましょう」
と日本酒を注文し、手酌で一気しまくった。相手に注がせる隙も与えなかった。観察者であり守護者である本来の任務を遂行するためには、偉大なる中華のALDH2を誇示し、入れられようとしている輪から分離されるべきだった。
どうやら相手の予想以上に私が酒に強かったらしく、相手はサイレントモードになり、退散していった。私は作戦成功を祝し、もうその必要はないのに手酌した。結局一人で5合くらい飲んだ気がする。
まだ続きます。次回完結、の予定です。