佐藤妹子の備忘録

鬱病6年無職の生活。

【前編】合コンで中国人留学生を演じきった話

「ギラギラしてきたぁ~~!!」

テーブルの向かい側の複数人のうち、中央の1人がそう言い、宴がスタートした。

 

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話はその数週間前に遡る。

私が大学生の頃バイトしていた居酒屋はK市の歓楽街にあり、魚や野菜は懇意にしている近隣の業者さんが届けてきてくれる。その居酒屋の店主と、仲のいい業者のおじさんの口約束により、その宴の開催は決定された。

「うちの男どもと、そっちの女の子たちでコンパ開こう!」

配達バイトは寮生のシマらしい。歴史ある国立大学の自治寮とあらば、バイト留年麻雀喫煙異性交遊無しと相場が決まっている。

とにかく双方の店主の勝手な思い付きで、6:6の合同コンパというものが開かれることになった。

 

居酒屋バイトとコンパという名目だったが、実際バイトが全員コンパに参加してしまったら労働力的に困るので、バイト数人が友達を引っ張ってくるというその流れになった。そんな中、私が自分から行きたいと言ったのか、来てと言われたのか詳細な流れは忘れてしまったが、その日予定が空いていた私も必然的に参加する運びとなった。

 

別に恋愛活動をしようとは毛頭考えていなかったが、「合コン」という文化に純粋に興味があった。

そういった儀式は、田舎の大学では日常的に行われていない。そもそも大学が少ないのでインカレサークルもほぼ存在しないし、私は何もサークルなんか入ってない陰の者だ。私にとって「合コン」は、創作物でしか見たことのない机上の儀式だった。そんなレアリティの高い儀式が身近で開かれるとあっては、好奇心が踊るのだった。

 

私は「合コン」について、マンガやドラマなどで見る偏った知識しかもっていなかった。合コンに来る異性は全員がっついていたり怪しいビジネスをやっているに違いない、自分はそういったことには興味がないから、何らかの自衛が必要だ、と考えた。一見してヤバいやつ、話しかけたくなくなるような人物を演じ、自らに話題が来ることはない中で、バイト先のおいしいお酒とおいしい料理を安く味わいつつ、この儀式の観察者になる必要があった。

 

そこで思いついたのが「中国人留学生を演じる」ことだった。明らかにカタコトで気合の入ってない服装でいれば、日本人による日本人のための合コンという儀式を、外から観察できると踏んだ。そもそも中国の血は入っているし文化もそこそこ分かるので、いけると思った。

私がその作戦で参加すると知って、バイト内の参加者R子もなぜかその作戦に乗ってきた。私とR子は、大学内のカフェでルーズリーフを広げ、中二病患者のごとく自らの設定を練った。結果、

私→シン・サト(日本語読み)、文学部の中国人留学生、ボランティアサークル「グリフィン」に所属

R子→白井貴子、文学部、私と同じくボランティアサークル「グリフィン」に所属

というそれぞれのパーソナルデータが決定した。

「でも知ってる男の人いたらやめるからね」とR子は言った。R子はサークルも入っているし男子寮の知り合いが多い陽キャなのだ。

ちなみに「グリフィン」はメンバー20名ほどで、海岸のごみ拾いなどをしているサークルだ。経済学部の3年生が部長を務めており、創立4年ほどとまだ若い団体である。サークルのシンボルは双翼だ。オリジナルTシャツも作っている。尚もちろん実在しない。シンボルマークもちゃんとデザインしてルーズリーフに描いといた。

私はバイト先の大将に「私はジャージで中国人のふりしますよ」と宣言した。常連さんにも宣言しておいた。

 

そうして10月の2週目か3週目の土曜夜、時は満ちた。

私は、宣言通り紺地に青いラインが入っている高校のジャージを上下着てきた。高校名も入ってないただの紺色の地味なジャージなので助かった。

女性陣のほうが到着が早かったので、私は(こういうのは男が先に着いてて、後から入ってくる女たちが着席するのを舐るように見定めるものじゃないのか?)と思った。

こちらのメンバーは、上座からY恵、C子、R子(白井貴子)、K子、A子、私(シン・サト)となった。

Y恵はC子が連れてきた友達で私とも面識があるのだが、C子はY恵について「安くおいしいもん食べれるから~~」とだましだまし連れてきたことを白状し、Y恵もうなずいた。

A子は誰が連れてきたのか覚えていないが、とにかく私とは初対面だったので、観察者としては、数合わせで来ているのか本気で戦に臨んでいるのか、はかりかねていた。と思いきやそわそわとトイレに行き髪をセットしだしたので、間違いない、A子はガチのマジでキテるぜ、と確信して私はにやついた。

K子とは面識があった。普段あまり化粧っ気がなく、浮いた話も聞かない彼女だったが、その日はピンク系のアイシャドウをしていたので、意外だったが気合を入れてきているらしかった。

面識のないA子以外には、「私は中国人のていでいるので、ツッコまないでくれ」と一言言っておいた。女性陣のノリ次第では、「この子嘘ついてま〜〜す!!!wwww」と晒し者になる可能性があるからだ。

そうこうしているうちに男性陣が到着して、到着が遅れたことを詫びつつ、みんな着席した。

 

「ギラギラしてきたぁ~~!!」

テーブルの向かい側の、中央の1人がそう言いながら座り直し、宴がスタートした。どうやらこの桑田佳祐を小さくして少し丸くしたような男性は、かなりのガチのマジで本気でこの場に来ていて、ギラギラしているらしかった。

全員の飲み物を注文して飲み放題をスタートさせなければならないのだが、いかんせん10人以上でがやがやしているし女性はギラギラしてないし、積極性に欠ける。

 

ヤバい!盛り上げなければ!と思った。ここで盛り上がらないと「合コン」という儀式が本来持つべきである奔放性が下がると思った。私は本能的に

「生でいい人~~???!!!」

と叫んだ。向かいの男性陣は「お~~ノリノリじゃ~~ん!!!!!」みたいなことを言ってきて、私はとりあえず盛り上がりの創造に成功したことに祝杯を挙げた。

 

とりあえず盛り上げたので、私は小さくなって気配を消すように努めた。するとどうやら自己紹介タイムが始まったようだった。

「Y恵です、」

「C子です」

「R子です」

???今なんつった?こいつ、R子って言った???白井貴子だろ!!!!白井貴子!!!!一緒に頑張ろうねって言ったじゃん!!!

私は、マラソン大会で一緒に走ろうねと誓い合った女友達にスタートダッシュをキメられた気分になった。 開幕早々に裏切られた。うっそだろお前・・・

一番最後に、私の番が回ってきた。ジャージのチャックを首まで上げて、

シン・サトでス。ちゅごくからきてます。」

私はアイデンティティを失うわけにはいかない、負けるものか、こいつらに絶対個人情報を渡さないぞ!強い決意のもとスはxっぽく発音した。

「へ~~」という空気になった。

以降はできるだけこの宴の輪の外にいるように努力した。誰にも話しかけられなかったし話しかける気もないので、聞き耳を立てつつ一人で梅酒ロックを飲みまくっていた。

 

今日はここまで。続きます。

 

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