佐藤妹子の備忘録

精神障害者のメモ。

死んだって何も変わらないんだよ

子どもに罪はないといって望まないタイミングで妊娠出産するのは勝手だが、果たして産まれた子供がなんの罪の意識もなしに育つだろうか?わたしは育たなかった。

 

母はもう20年ほど、フルタイムの非正規雇用で働いている。手取りは新卒の大学生以下だろう。いつもお金がないお金がないと言っている。仮にも東京六大学出身で、留学経験もある才女だ。

私が大学一年の時、なぜ正社員として就職しなかったのか、そう聞いたとき母は、だってあんたが生まれたんだもん、と軽く答えた。

 

母は留学中、異国の地で父と出会い、私が生まれたが2年ほどで離婚した。私は母方の曽祖父母、祖父母、母、私の四世代同居で幼少期を過ごした。古き良き時代であった。しかし小学校入学前、母は再婚し、現代の核家族形態で生活するようになった。

 

私は良い子ではなかった。隠れてお菓子を買い食いしたり、教師に嘘をついて体育をサボったり、中学の頃には親に黙って高額な買い物をしたり、夜まで帰らなかったり、警察に指紋を取られるほどのことまでした(補導はされてないけど)。

 

警察沙汰になったときは、母には「親に殺されたいのか」とハサミを突きつけられ、継父にもバチボコにしばかれ、夏の間はしばらく生家に預けられることになった。

後日聞いた話では、私の悪事を知った祖母は、母に「向こうの国に帰そうか」とまで言ったらしい。肉親である母からも祖母からも厄介者扱いされていたのだ。

車で10分ほどの生家から迎えに来た祖母は、私が後部座席に乗り込むと、こちらも見ずに運転しながら、

「あんたのお父さんはねえ日本語も上達しなくて全然仕事もなくて、お母さんの首を絞めたこともあって」 

と話した。私は後ろで声を押し殺して泣いた。泣き声は消せた。自分も消えてしまいたかった。

 

思えば中学のこの頃から、死にたいという気持ちが発露して来たと思う。

自分は出来損ないだ、生まれてから親に迷惑しかかけていない、死にたい、そう考えるようになった。

 

人は学習しないもので、そんな大騒ぎまで起こしておきながら、また高校2年生のときに親に怒られるようなことをしてしまった。

木刀で何度も殴られた。

死にたいと思うとどんどん涙が溢れてくる。するとまた「泣けば良いと思いやがって」と言い捨てられるのだった。

高3からは流石に、もう過激なお叱りを受けるようなことはしなくなった。良い子であろうと努めた。母は、再婚しても「自分の子の学費は自分で出す」と言い、習い事のお金も自分の少ない給料から出してくれていた。このため、特に金銭面で母の負担になることはやめようと思い、高校に進学してからは塾も含め一切習い事をしなかった。

曲がりなりにも進学校という環境にいたため、のらくら過ごし、特に授業以外受験勉強と言えるようなこともしなかったのだが、世間では上の方の国立大学に進学出来た。物理的に母と離れたため、互いに程よい距離感の親子になれた。

 

離れるとたまに家族のことが思い出されるものだ。母のこと、継父のこと、年の離れた妹のこと。

母は、もともと結婚というものに向いていないのだろう、継父との関係も10年も経てば夫婦と呼べないものに成り果てた。一緒に買い物に行くことがなくなり、一緒に食卓を囲むことがなくなり……私が大学進学前、最後の家族旅行と称して沼津に行ったが、同じ車に家族全員が揃ってどこかへ観光に行くなんてのは、それが本当に最後になった。

 家を出るまで、私は道化を演じて家族を笑わせ、夫婦の仲が冷え切っていることから目を背けさせようとしていた。常に茶化して流すことで、これ以上家族がバラバラになるのを防ぎたいと思っていた。でも当時まだ小学生の妹にはそれは出来ない。彼女は、自分の父母がどんどん相互不干渉になっていくのを見せられ、母が父の悪口を言うのを聞かされなければならないのだ。それが、大学進学後の私には悲しくて悲しくて仕方がなかった。

この頃は鬱病と診断されて間もない頃だが、過去の様々な悪事に関する自責の念、この不遇な妹のことを思って毎日死にたい死にたいと泣いていた。

 

そんな時期、冒頭の「あんたが生まれちゃったから」を聞いて、鬱病特有全てをマイナスに捉えるおばけが俺に囁いた。 「お前が生まれなかったら、母はDV夫と結婚することもなく、学歴にふさわしい仕事ができて、バリバリ働いてしかるべき時に結婚出産して、幸せに生きられたんじゃないのか?」

 

ああ、そうだ。おれがうまれてしまったから、母の人生は、くるってしまったんだ。

おれが今死んでも、不憫な妹が残ることはかわらない。母が安月給で働き続けることにはかわらない。

でもおれがうまれていなかったら?

死にたい気持ちが、生まれてきたくなかった気持ちに変化して、今のおれの鬱病がある。生まれた罪を、現世で贖えるんだろうか