佐藤妹子の備忘録

鬱病7年無職の生活。

【中編】合コンで中国人留学生を演じきった話

 前編はこちら。

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一人で梅酒をガブガブ飲みまくっていたら、カウンター席のほうに常連さんが来たので挨拶に行った。

私「こんばんは!」

常連さん「何やその恰好wwwコンパちゃうんかwww」

私「宣言通りちゃんとジャージで来ました」

女将さん「サトちゃん、最初のビールの人~てやつすごかったねえ~」「一人で梅酒飲んでるの涙ぐましいわ~」

褒められたと受け取ったので、私はいい気になった。カウンターでも梅酒を飲んだ。

シフト中のバイト仲間と「なんかギラギラしてる人いるのウケる」などとゲラゲラ笑っていると、コンパ席のほうにいるC子に戻ってこいと呼ばれたのでしぶしぶ戻った。

 

席に戻ると、合コンの空気は互いのプロフィールを探り合う感じになっていた。

A子は酒に弱いらしく、「もう~~~!!!!」「あたしなんとかかんとかですよ~~!!!!!」とドチャクソ大声でケラケラ姦しい。

開幕早々ユダと化したR子も酒に弱いのでわりとクネクネになっており、ギラギラしている桑田の目が、その巨乳を嘗め回していた(ように見えた)。R子は酒に弱いのと男性ウケする容姿を持ち合わせており、ハゲタカのように女に飢えている男たちの格好の標的になることは予期出来ていた。私はこの儀式の観察者として、また友人R子を桑田から守るため、最後まで宴を見届けねばならないと再度覚悟した。

男性陣のほうは、桑田ともう一人、二人は本気の参戦に見えたが、残りはその後輩で要は数合わせらしく、私のように手持無沙汰にしていた。

 

私は席に着いたはいいものの特にすることもないのでひたすら料理を食べていたが、突然向かいの席の男子がボソボソと声を掛けてきた。

「あの・・・中国から、来てるんですか」

そう話しかけてきたこの男子については、最初の自己紹介により年下の理系学生だと把握できていた。メンバーの中で一番年下の彼は、窪田正孝の目鼻立ちを地味にした感じで、純朴そうであった。

「そです。」私はシーザーサラダを食べながら返した。

「あの、中国の人って、生野菜とかあんま食べないって友達が言ってたんですけどそうなんですか?」

「そですねーやっぱちゅごくだと、農薬すごいから、あまり食べないです。ァでも、日本の野菜、おいしです、すごく」

「へえ~~~」

窪田が正直会話に興味がないことは明らかだった。先輩にいやいや連れてこられたコンパで、なんとか、向かいに人が座っている手前会話をしなければならないと、窪田は年下なりに一生懸命考えているのであった。彼を朝ドラヒロインにしたら、全国の老人からNHKに応援のハガキが送られてくるだろう。

会話に興味がない者同士の微妙な空気を共有していると、男性陣の席替えが始まったらしく、わりと本気っぽい男性が窪田の隣にやって来た。真面目な窪田は先輩の意図を察し、別の席に移動していった。全米が泣いた

 

サトちゃんって、どこ出身?」

男の質問を受け、私は、まさか私が日本人だとバレていてこいつはそのカマをかけにきているのだろうかと警戒した。

初対面の異性が複数現れてそれぞれ自己紹介をしたら、まず好みの見た目のやつを覚えるだろうが、同時に異質なやつを一瞬で覚えるはずだ。いやこいつ何でジャージなんだよしかも中国人なのかよ、とインパクトはあるはずだ。その前提をここで覆してくるのだ、こいつはよほどのバカか、私のことを日本人だと見抜いている嗅覚と洞察力の持ち主なのか、私には判断しかねた。しかしわたしの観察者としての立場を崩すわけにはいかない。数合わせの日本人とバレるより、日本の合コンに興味がある中国人でいたほうが、空気も悪くしないだろう。

「ちゅごくです」私は平静を装って言った。

「え~~省まで当てたいな~~wwww」

心底どうでもいいと思ったので、「むずかしですよ~~」と答えた。設定では四川省になっているが、そこまで話す義理はないと思った。

相手はそんなに中国の省に詳しくないようで、

「てかサトちゃんめっちゃ飲むね!」と話題を変えてきた。

私はそのとき梅酒しか飲んでいなかったので、「まだそんなに飲んでないですよ」と答えると、

「何のお酒が好き?」と聞いてきた。

「にほしゅですかね」と言った。このへんは事実だ。うまい嘘をつくには嘘のなかに本当のことを混ぜるといいと云う。

相手はそれ来た!といわんばかりに日本酒を注文し、立山2合が目の前にやってきた。

私とその男は互いに注ぎ合い、乾杯をした。私はどうでもいい会話を終わらせたかったので、一気に飲んで残りを手酌して圧倒する作戦を取った。

「・・・強いね、潰れたことってある?」

相手が怖気づいているのが伝わってきた。中国四千年の歴史の前にひれ伏したのだ。

「ありますよ^^」

私が答えると、まだチャンスを見出したのか

「え~~潰してみたいな~~ww」

とのたまってきたので、

「じゃあしょぶしましょう」

と日本酒を注文し、手酌で一気しまくった。相手に注がせる隙も与えなかった。観察者であり守護者である本来の任務を遂行するためには、偉大なる中華のALDH2を誇示し、入れられようとしている輪から分離されるべきだった。

 

どうやら相手の予想以上に私が酒に強かったらしく、相手はサイレントモードになり、退散していった。私は作戦成功を祝し、もうその必要はないのに手酌した。結局一人で5合くらい飲んだ気がする。

 

まだ続きます。次回完結、の予定です。

 

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【前編】合コンで中国人留学生を演じきった話

「ギラギラしてきたぁ~~!!」

テーブルの向かい側の複数人のうち、中央の1人がそう言い、宴がスタートした。

 

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話はその数週間前に遡る。

私が大学生の頃バイトしていた居酒屋はK市の歓楽街にあり、魚や野菜は懇意にしている近隣の業者さんが届けてきてくれる。その居酒屋の店主と、仲のいい業者のおじさんの口約束により、その宴の開催は決定された。

「うちの男どもと、そっちの女の子たちでコンパ開こう!」

配達バイトは寮生のシマらしい。歴史ある国立大学の自治寮とあらば、バイト留年麻雀喫煙異性交遊無しと相場が決まっている。

とにかく双方の店主の勝手な思い付きで、6:6の合同コンパというものが開かれることになった。

 

居酒屋バイトとコンパという名目だったが、実際バイトが全員コンパに参加してしまったら労働力的に困るので、バイト数人が友達を引っ張ってくるというその流れになった。そんな中、私が自分から行きたいと言ったのか、来てと言われたのか詳細な流れは忘れてしまったが、その日予定が空いていた私も必然的に参加する運びとなった。

 

別に恋愛活動をしようとは毛頭考えていなかったが、「合コン」という文化に純粋に興味があった。

そういった儀式は、田舎の大学では日常的に行われていない。そもそも大学が少ないのでインカレサークルもほぼ存在しないし、私は何もサークルなんか入ってない陰の者だ。私にとって「合コン」は、創作物でしか見たことのない机上の儀式だった。そんなレアリティの高い儀式が身近で開かれるとあっては、好奇心が踊るのだった。

 

私は「合コン」について、マンガやドラマなどで見る偏った知識しかもっていなかった。合コンに来る異性は全員がっついていたり怪しいビジネスをやっているに違いない、自分はそういったことには興味がないから、何らかの自衛が必要だ、と考えた。一見してヤバいやつ、話しかけたくなくなるような人物を演じ、自らに話題が来ることはない中で、バイト先のおいしいお酒とおいしい料理を安く味わいつつ、この儀式の観察者になる必要があった。

 

そこで思いついたのが「中国人留学生を演じる」ことだった。明らかにカタコトで気合の入ってない服装でいれば、日本人による日本人のための合コンという儀式を、外から観察できると踏んだ。そもそも中国の血は入っているし文化もそこそこ分かるので、いけると思った。

私がその作戦で参加すると知って、バイト内の参加者R子もなぜかその作戦に乗ってきた。私とR子は、大学内のカフェでルーズリーフを広げ、中二病患者のごとく自らの設定を練った。結果、

私→シン・サト(日本語読み)、文学部の中国人留学生、ボランティアサークル「グリフィン」に所属

R子→白井貴子、文学部、私と同じくボランティアサークル「グリフィン」に所属

というそれぞれのパーソナルデータが決定した。

「でも知ってる男の人いたらやめるからね」とR子は言った。R子はサークルも入っているし男子寮の知り合いが多い陽キャなのだ。

ちなみに「グリフィン」はメンバー20名ほどで、海岸のごみ拾いなどをしているサークルだ。経済学部の3年生が部長を務めており、創立4年ほどとまだ若い団体である。サークルのシンボルは双翼だ。オリジナルTシャツも作っている。尚もちろん実在しない。シンボルマークもちゃんとデザインしてルーズリーフに描いといた。

私はバイト先の大将に「私はジャージで中国人のふりしますよ」と宣言した。常連さんにも宣言しておいた。

 

そうして10月の2週目か3週目の土曜夜、時は満ちた。

私は、宣言通り紺地に青いラインが入っている高校のジャージを上下着てきた。高校名も入ってないただの紺色の地味なジャージなので助かった。

女性陣のほうが到着が早かったので、私は(こういうのは男が先に着いてて、後から入ってくる女たちが着席するのを舐るように見定めるものじゃないのか?)と思った。

こちらのメンバーは、上座からY恵、C子、R子(白井貴子)、K子、A子、私(シン・サト)となった。

Y恵はC子が連れてきた友達で私とも面識があるのだが、C子はY恵について「安くおいしいもん食べれるから~~」とだましだまし連れてきたことを白状し、Y恵もうなずいた。

A子は誰が連れてきたのか覚えていないが、とにかく私とは初対面だったので、観察者としては、数合わせで来ているのか本気で戦に臨んでいるのか、はかりかねていた。と思いきやそわそわとトイレに行き髪をセットしだしたので、間違いない、A子はガチのマジでキテるぜ、と確信して私はにやついた。

K子とは面識があった。普段あまり化粧っ気がなく、浮いた話も聞かない彼女だったが、その日はピンク系のアイシャドウをしていたので、意外だったが気合を入れてきているらしかった。

面識のないA子以外には、「私は中国人のていでいるので、ツッコまないでくれ」と一言言っておいた。女性陣のノリ次第では、「この子嘘ついてま〜〜す!!!wwww」と晒し者になる可能性があるからだ。

そうこうしているうちに男性陣が到着して、到着が遅れたことを詫びつつ、みんな着席した。

 

「ギラギラしてきたぁ~~!!」

テーブルの向かい側の、中央の1人がそう言いながら座り直し、宴がスタートした。どうやらこの桑田佳祐を小さくして少し丸くしたような男性は、かなりのガチのマジで本気でこの場に来ていて、ギラギラしているらしかった。

全員の飲み物を注文して飲み放題をスタートさせなければならないのだが、いかんせん10人以上でがやがやしているし女性はギラギラしてないし、積極性に欠ける。

 

ヤバい!盛り上げなければ!と思った。ここで盛り上がらないと「合コン」という儀式が本来持つべきである奔放性が下がると思った。私は本能的に

「生でいい人~~???!!!」

と叫んだ。向かいの男性陣は「お~~ノリノリじゃ~~ん!!!!!」みたいなことを言ってきて、私はとりあえず盛り上がりの創造に成功したことに祝杯を挙げた。

 

とりあえず盛り上げたので、私は小さくなって気配を消すように努めた。するとどうやら自己紹介タイムが始まったようだった。

「Y恵です、」

「C子です」

「R子です」

???今なんつった?こいつ、R子って言った???白井貴子だろ!!!!白井貴子!!!!一緒に頑張ろうねって言ったじゃん!!!

私は、マラソン大会で一緒に走ろうねと誓い合った女友達にスタートダッシュをキメられた気分になった。 開幕早々に裏切られた。うっそだろお前・・・

一番最後に、私の番が回ってきた。ジャージのチャックを首まで上げて、

シン・サトでス。ちゅごくからきてます。」

私はアイデンティティを失うわけにはいかない、負けるものか、こいつらに絶対個人情報を渡さないぞ!強い決意のもとスはxっぽく発音した。

「へ~~」という空気になった。

以降はできるだけこの宴の輪の外にいるように努力した。誰にも話しかけられなかったし話しかける気もないので、聞き耳を立てつつ一人で梅酒ロックを飲みまくっていた。

 

今日はここまで。続きます。

 

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臆病な自尊心と尊大な羞恥心

もともと文章力には自信があった。

作文コンクールではよく入賞したし、小論文のテストでは模範に選ばれたし、そもそも国語に関しては、満点で全国模試一位を二度取ったことがある。

大学を卒業してアカデミックライティングを離れてから、フリーライターとして活動したりして、文章力を落とさぬように書くことを続けたつもりだった。

このブログも、そうした目的で始めたものだった。

 

今、数年ぶりにアカデミックな文章を求められているのだが、

全く書けなくなっていた。

思い起こせば、くだらないキュレーションサイト()やどうでもいいブログで、文章力が保持されるわけがないのだ。高邁な文章力を維持するつもりで、卑しい文を書き続けていたのだ。

 

それに気づいて、動悸と不安が増大している。